ペパーミント精油が医薬品に!コルペルミンと昔のメンタ湿布

看護の温湿布から、ペパーミントオイルを使った医薬品へ。研究から見えてきた意外なつながり
この記事の結論
昔の看護では、ハッカ油を使っておなかを温める「メンタ湿布」が行われていました。一方、現在はペパーミントオイルを腸まで届ける医薬品「コルペルミン」が、過敏性腸症候群(IBS)の症状緩和に使われています。
同じミントの仲間でも、身体への使い方も目的も違うのです。
この記事では、看護の歴史と研究をたどりながら、その違いを紹介します。なお、アロマテラピー用の精油の飲用を勧めるものではありません。

メンタ湿布って、知っていますか?
「メンタ湿布」という言葉を聞いたことがありますか?
看護を学んだ方の中には、「昔、学校で習った」「病院で使っていた」と懐かしく感じる方もいらっしゃるかもしれません。
メンタ湿布は、ハッカ油を使った温かい湿布で、おなかのケアなどに利用されてきた看護技術の一つです。
ハッカといえば、スーッとした清涼感が特徴ですよね。
それを温かいタオルと組み合わせて、おなかに当てていたのです。
TINO:「ハッカなのに、温かい湿布なの? なんだか不思議!」
川口三枝子:「そうですよね^^ でも、もっと面白いのは、このハッカの仲間が、今ではおなかの症状に使う飲み薬にもなっていることなんです」
その医薬品が、ペパーミントオイルを有効成分とする「コルペルミン」です。
昔のメンタ湿布と、現在のコルペルミン。
どちらもミントの仲間を使っていますが、使い方も、研究の進め方もずいぶん違います。
今回は、そんな看護と医薬品の歴史をたどりながら、植物の成分について考えてみたいと思います。
1960年の医学文献にも「メンタ湿布」が登場します
1960年4月発行の医学雑誌『臨床外科』に、「腸運動刺激剤としてのパントールの使用経験」という論文があります。
この論文は、開腹手術後の腸の運動低下について報告したものです。
手術後には、腸の動きが弱くなり、ガスが排出されにくくなるなどの問題が生じることがあります。
当時も、腸の動きをどのように回復させるかが大きな課題だったのですね。
この論文の冒頭では、従来から利用されてきた方法として、注射薬や浣腸などとともに「メンタ湿布」が挙げられています。
つまり、1960年には、すでにメンタ湿布が医療の現場で知られていたことがわかります。
ただし、この論文そのものは、メンタ湿布の効果を調べた研究ではありません。
当時の一般的な方法として名前が登場しているのです。
それでも、60年以上前の医学文献にハッカを使ったケアが登場するというのは、興味深いと思いませんか?
▶ 出典:政所修治・大脇勇介(1960)「腸運動刺激剤としてのパントールの使用経験」『臨床外科』15巻4号
2012年、千葉大学がメンタ湿布を研究していました
では、メンタ湿布を行うと、身体にはどんな変化が起こるのでしょうか?
2012年にまとめられた千葉大学の研究成果報告書に、興味深い結果があります。
研究課題は「脳-腸相関を利用したストレスの軽減・耐性強化に資する簡易健康法の開発」。
脳と腸が互いに影響し合う「脳-腸相関」に注目した研究です。
メンタ湿布で、何を調べたのでしょう?
この研究では、腹式呼吸や足裏マッサージなど、身体へのさまざまな働きかけが検討されました。
その一つがメンタ湿布です。
報告書には、ハッカ油を混ぜた湯にタオルを浸し、絞って腹部に当てる方法が記されています。
そして、胃腸の活動や皮膚温、脳血流などの変化を調べました。
結果は、ちょっと意外なものでした
研究成果報告書では、メンタ湿布によって次のような変化が報告されています。
- 上行結腸と下行結腸の活動指標が有意に増加した
- 腹部だけでなく、前腕の皮膚温も有意に上昇した
- 上行結腸の活動度と右前頭葉の脳血流量に正の相関が認められた
- 腹部に強い清涼感が感じられた
ここで私が面白いと感じるのは、スーッとした清涼感があるのに、皮膚温は上昇していたという点です。
ハッカに含まれるメントールには、冷たさを感じさせる性質があります。
でも、冷たく感じることと、実際の皮膚温が下がることは同じではありません。
温かいタオルの熱と、メントールによる清涼感。
この2つが同時に存在していたのですね。

ただし、この報告書ではメンタ湿布の実験人数や、温めるだけの場合との詳細な比較数値は示されていません。
また、腸の電気的な活動指標が増えたことと、便秘などの症状が改善したことは別です。
それでも、昔から使われてきた看護技術を、こうして身体の変化から調べていたことに興味をひかれます。
▶ 出典:山田重行(研究代表者)「脳-腸相関を利用したストレスの軽減・耐性強化に資する簡易健康法の開発」研究成果報告書(2012年)
そのペパーミントが、今度は「飲む医薬品」に!
さて、ここから少し時代を進めてみましょう。
ペパーミントオイルを使った医薬品「コルペルミン」をご存じでしょうか?
日本では2022年3月24日に、ゼリア新薬工業から発売されました。
有効成分は、セイヨウハッカ油(ペパーミントオイル)。
過敏性腸症候群(IBS)の症状に使われる医薬品です。
IBSとは、腹痛や腹部不快感とともに、下痢や便秘などの便通異常を繰り返す病気です。
コルペルミンは、以前に医師からIBSの診断・治療を受けた人を対象に、腹痛や腹部不快感を伴う下痢・便秘などの症状を緩和する医薬品として承認されています。
「植物の精油が、医薬品の有効成分になっている」
アロマテラピーを学んでいる方にとっても、興味深いことではないでしょうか。
実は、ヨーロッパではもっと前から使われていました
コルペルミンは、スイスのTillotts Pharma社が開発した製剤です。
英国では1981年から販売され、ヨーロッパ各国で長く使用されてきました。
そして日本でも、国内での臨床試験を経て、2022年に発売されたのです。
1960年の日本の医学文献にはメンタ湿布。
1981年には英国で、ペパーミントオイルのカプセル製剤。
そして2022年、日本でもIBS改善薬としてコルペルミンが発売されました。
もちろん、メンタ湿布がそのままコルペルミンへ発展したわけではありません。
でも、ミントの仲間がおなかのケアに使われてきた歴史を、看護技術と医薬品の両方から見ることができるのです。
▶ 出典:ゼリア新薬工業|コルペルミン公式製品情報
なぜ、ペパーミントオイルをカプセルにしたのでしょう?
ここも面白いところです。
コルペルミンは、ペパーミントオイルを単にカプセルに詰めただけのものではありません。
腸溶性カプセルという工夫がされています。
胃ではなく、腸で放出する仕組み
腸溶性とは、胃の酸性環境では溶けにくく、腸に達してから内容物を放出するように設計されていることです。
なぜ、そんな工夫が必要なのでしょうか?
ペパーミントオイルには、メントールなどの成分が含まれています。
経口で使用した場合、胃の中で早く放出されると、胸やけなどの不快な症状につながることがあります。
そこで、腸まで届けるための製剤技術が使われているのです。
1984年には、コルペルミンの放出特性を調べた薬物動態研究も報告されています。
この研究では、通常の軟カプセルなどとの比較から、コルペルミンではメントールの排泄ピークが遅れて現れることが確認され、放出が遅れる製剤の特徴と整合する結果が得られました。
TINO:「同じペパーミントオイルでも、どこに届けるかまで考えているんだね!」
川口三枝子:「そうなんです^^ 成分を知るだけでなく、身体のどこに、どのように届けるかも大切なんですよ」
アロマテラピーでは、精油の成分そのものに注目することが多いと思います。
でも、医薬品では成分だけでなく、剤形や放出される場所まで考えられています。
これも、植物の成分が医薬品として利用されるときの大きな違いですね。
日本人69人の臨床試験では、どんな結果だったのでしょう?
では、日本でもペパーミントオイルのカプセルを使った研究は行われているのでしょうか?
2024年に『BioPsychoSocial Medicine』に、日本人を対象とした臨床試験の論文が発表されています。
論文のタイトルは、
「Efficacy and safety of peppermint oil for the treatment in Japanese patients with irritable bowel syndrome」
日本人のIBS患者に対するペパーミントオイルの有効性と安全性を調べた研究です。
この試験は日本での発売前に実施され、その成果が後に論文として発表されました。
69人に4週間投与した研究
研究では、17〜60歳の日本人IBS患者69人に、ペパーミントオイルの腸溶性カプセル製剤「ZO-Y60」を4週間投与しました。
症状の変化は、患者さん自身による全般的な改善評価や、医師による評価などで調べました。
その結果、患者さん自身が症状の改善を報告した割合は、
2週間後:71.6%(48人/67人)
4週間後:85.1%(57人/67人)
でした。

また、下痢型、便秘型、混合型のいずれのIBSでも改善が報告されています。
なかなか興味深い数字ですよね。
ただし、ここで大切なのは研究方法です。
この研究は、全員が試験薬を服用する非盲検・単群試験でした。
プラセボなどを服用する対照グループは設けられていません。
そのため、85.1%という数字を、そのまま薬の効果だけによる改善率と解釈することはできません。
また、69人中14人に有害事象が報告され、薬との関連があると判断された副作用は2人に認められました。
効果だけでなく、安全性も含めて調べられているところが医薬品の臨床研究なのですね。
ヨーロッパなどでは、プラセボと比較する臨床試験も行われています。
日本の研究も、こうした海外の研究結果と合わせて評価することが大切です。
昔は腸の活動を促し、今は腸の異常な収縮を和らげる?
ここで、私はもう一つ面白いことに気づきました。
2012年のメンタ湿布の研究では、上行結腸や下行結腸の活動指標が増加したと報告されていました。
一方、ペパーミントオイルの飲み薬については、腸の平滑筋の異常な収縮を和らげる働きが考えられています。
一見すると、反対のように思えませんか?
TINO:「昔は腸を動かそうとしていたのに、今は腸の収縮を抑えるの?」
川口三枝子:「そうなんです。でも、実は調べていることが違うんですよ^^」
メンタ湿布の研究では、おなかを温めたときの腸の活動や身体の反応を調べていました。
一方、コルペルミンでは、IBSの患者さんに起こる腹痛や便通異常などの症状を対象にしています。
また、メンタ湿布は身体の外からのケアですが、コルペルミンは腸の中へ有効成分を届ける医薬品です。
研究の対象も、成分が届く場所も、評価している結果も違います。
ですから、「腸の活動が増えた」という結果と「異常な収縮を和らげる」という説明を、単純に反対の作用だと考えることはできません。
こうした違いに注目すると、植物の成分を学ぶ面白さが、さらに広がりますね。
ハッカ油とペパーミント精油は、同じもの?
もう一つ、区別しておきたいことがあります。
歴史的なメンタ湿布に使われたハッカ油、現代のペパーミント精油、そしてコルペルミンに配合されるペパーミントオイルは、すべて同じ製品ではありません。
日本のハッカと、西洋のペパーミントでは、植物の種類や成分構成が異なる場合があります。
コルペルミンの原料は、セイヨウハッカ Mentha × piperita から得られるペパーミントオイルです。
さらに、医薬品として製造されたカプセルと、アロマテラピー用に販売されている精油では、品質規格や使用目的が異なります。
アロマテラピー用のペパーミント精油を、そのまま飲んで代用することはできません。
ここは、特に大切な違いだと思います。
コルペルミンは、今では薬局で購入できる医薬品です
日本で2022年に発売されたとき、コルペルミンは「要指導医薬品」でした。
その後、2025年には第1類医薬品となり、2026年8月31日からは第2類医薬品へ区分が変わっています。
第2類医薬品は、薬剤師だけでなく登録販売者も販売に対応できる区分です。
ただし、誰でもおなかの調子が悪いときに使ってよいわけではありません。
コルペルミンの効能・効果は、以前に医師からIBSの診断・治療を受けた人に限定されています。
腹痛や便通異常には、IBS以外の病気が隠れていることもあります。
初めて症状が出た場合や、以前とは違う症状がある場合には、自己判断せず医療機関で相談することが大切です。
この記事は精油の飲用をおすすめするものではありません
これは安易な精油の飲用を勧めるものではありません。
この記事は、昔の看護で使われたメンタ湿布と、ペパーミントオイルを医薬品に活用した歴史や研究を紹介するもので、精油の飲用やコルペルミンの服用をおすすめするものではありません。
コルペルミンは、以前に医師から過敏性腸症候群(IBS)の診断・治療を受けた15歳以上の方を対象とした医薬品です。そのほかにも使用できない条件や注意事項があります。
医薬品として製造されたコルペルミンと、アロマテラピー用のペパーミント精油は異なります。
アロマ用の精油を飲んで代用することはできません。
医薬品の使用は、添付文書を確認し、必要に応じて医師や薬剤師に相談してください。
ペパーミントオイルを有効成分とする医薬品が、海外で長く使用され、日本でも臨床研究を経て販売されている。
この歴史は、アロマテラピーを学ぶ私たちにとっても興味深いものだと思います。
▶ 最新情報:ゼリア新薬工業|コルペルミン
看護の歴史と、植物の化学がつながる面白さ

昔の看護技術であるメンタ湿布。
そして、ペパーミントオイルを使った現在の医薬品、コルペルミン。
同じミントの仲間でも、使われ方は大きく違います。
温かい湿布として身体の外から働きかける方法と、カプセルにして腸まで届ける方法。
それぞれに異なる歴史があり、研究が積み重ねられてきました。
そして、こうした研究を見ていると、単に「ペパーミントはおなかによい」という説明では足りないことがわかります。
どんな植物を、どのような形で、誰に、何のために使うのか。
それによって、考えるべきことが変わるのです。
私は、こういうところにアロマテラピーの学びの面白さがあると思っています。
昔の看護技術を知ることで、今のケアについて考えるきっかけになる。
そして、医薬品としての利用を知ることで、精油の成分をもっと深く理解したくなる。
「なぜ、この植物が使われてきたのだろう?」
その疑問を大切にしながら、これからも植物と身体の仕組みを学んでいきたいですね。
AromaTimeでは、植物の生育環境、精油の化学成分、研究の結果をつなげながら、アロマテラピーをわかりやすくお伝えしています。
この記事を書いた人|川口三枝子
AromaTime代表/NARD JAPAN認定アロマ・トレーナー。著書『すぐ使えるアロマの化学』。
植物の生育環境と精油の化学成分をつなげながら、研究の根拠を踏まえたアロマテラピーを伝えています。緩和ケアでのアロマボランティア活動にも取り組んでいます。
ラベンダー3種の違い、診断で楽しく見てみませんか?
いつもの精油が、もっと面白くなる小さな診断です。
「ラベンダー=安眠」と思っていた方ほど、3種の違いを知ると精油選びが楽しくなります。3つの質問とラベンダーの小さなお話から、今のあなたに合う学びの入口をご案内します。
診断結果では、ラベンダー3種の姿・育つ場所・成分を見比べられる無料PDFもご案内します。

<この記事を書いた人> 川口三枝子(AromaTime主宰)
NARD JAPAN認定アロマ・トレーナー/アロマセラピストトレーナー。アロマ歴28年。著書『すぐ使えるアロマの化学』はロングセラーとなり、台湾語版も発売。AromaTimeスクールチームとして、緩和ケア病棟でのアロマケアボランティアも継続しています。
メール登録後は、植物と精油の学びのメール・メルマガ・講座のご案内をお送りします。配信はいつでも解除できます。

