「アロマのある日は、よく眠れました」──私が緩和ケアにラベンダーを持っていく理由

ラベンダーと月のそばでTINOが水を注ぐ「アロマのある日は、よく眠れました」の看護×アロマ記事アイキャッチ

この記事は「看護×アロマ」シリーズの1本です。

シリーズの入口はこちらです。
看護×アロマとは?看護師が知っておきたい基礎知識と安全な学び方

患者さんの言葉と睡眠研究から、香りと触れるケアを考える

「アロマのある日は、よく眠れました」

緩和ケア病棟で、患者さんからそう声をかけていただいたことがあります。

うれしかったです^^

でも同時に、私はこの一言を「ラベンダーが眠らせた」と簡単には受け取りません。

香りがあったこと。手や足に触れてもらったこと。ご自分で香りを選んだこと。そして、いつもと少し違う穏やかな時間があったこと。いくつものことが重なった結果かもしれないからです。

患者さんの言葉は大切に受け取る。でも、精油だけの効果とは決めつけない。

この記事では、私が緩和ケアのボランティアでラベンダーを持っていく理由を、私自身と生徒さんの経験、そして睡眠に関する研究を分けながら書いてみます。治療としての不眠対策や、医療に代わる方法をお伝えする記事ではありません。

なぜ、2種類のうち一つにラベンダーを入れているのか

緩和ケア病棟へ伺うとき、私たちは香りの違うブレンドを2種類用意しています。

その場で一からブレンドするのではなく、あらかじめ用意した2種類から、患者さんご自身に香りを選んでいただきます。もちろん、香りを使わないという選択もあります。

そして私は、2種類のうち一つには、ほぼ毎回ラベンダーを入れています。

理由の一つは、ラベンダーと睡眠の関係を調べた研究が、ほかの精油に比べて比較的多いことです。

でも、論文があるからという理由だけではありません。

私自身も、眠りにくいときにラベンダーを使ってきました。講座でも、睡眠に悩んでいる生徒さんには、まずご自分で香りを試していただくことがあります。

実際に使ってみて、「寝る前の気持ちがゆるみやすかった」「お風呂で使うと、いつもより眠りに入りやすく感じた」という感想をいただくことも少なくありません。

中途覚醒に悩んでいた生徒さんには、夜中に目が覚めたとき、すぐ手に取れるよう枕元にラベンダーを置いておく方法をお伝えしたことがあります。

その方は、すぐに大きく変わったわけではありません。けれど、1か月ほど習慣にしたころ、「目が覚めてから再び眠るまでの時間が、以前より短くなったように感じる」と教えてくださいました。

こうした声は、研究結果そのものではありませんし、ラベンダーの効果を証明するものでもありません。

それでも、私が長く使いながら観察してきた経験として、精油を選ぶときの一つの手がかりになっています。

TINO

TINO

ラベンダーは、やっぱり眠れる精油なの?

AromaTime川口三枝子

AromaTime川口三枝子

そう言い切ることはできないの。でも、睡眠との関係を調べた研究が比較的多く、私自身も長く観察してきた香りなんです^^

緩和ケア患者68人を対象にした研究

2020年には、緩和ケア病棟の患者さん68人を対象に、ラベンダーと睡眠の関係を調べた無作為化比較試験が報告されています。

この研究では、ラベンダーを使ったグループと対照グループを比べ、翌朝に「眠りの深さ」「寝つき」「途中で目が覚めたあとの眠りやすさ」などを質問票で評価しました。

その結果、ラベンダーを使ったグループでは、2日目の眠りの深さや寝つき、再び眠ることなどに良い変化が見られました。一方で、バイタルサインには影響が見られませんでした。

ここで大切なのは、睡眠を脳波で測定した研究ではなく、患者さんがご自身の眠りをどう感じたかを質問票で調べた研究だということです。

私は、この「ご本人がどう感じたか」も大切な情報だと思っています。

ただし、68人という一つの研究だけで、すべての人に同じ変化が起こるとは言えません。緩和ケアでは、痛み、不安、薬、環境、昼間の過ごし方など、眠りに関係するものがたくさんあります。

出典:The Effect of Lavender Oil on Sleep Quality and Vital Signs in Palliative Care: A Randomized Clinical Trial(2020)

香りによる変化? それとも触れてもらった時間?

もう一つ、考える材料になる研究があります。

2004年にホスピスで行われた無作為化比較試験では、進行がんの患者さん42人が、ラベンダー精油を使ったマッサージ、植物油だけのマッサージ、介入を行わないグループに分けられました。

睡眠の評価は、ラベンダーを使ったグループと植物油だけのグループの両方で改善しました。しかし、マッサージにラベンダーを加えたことによる上乗せの利点は確認されませんでした。

出典:A randomized controlled trial of aromatherapy massage in a hospice setting(2004)

ラベンダーと睡眠に関する2020年の緩和ケア研究と2004年のホスピス研究を比較した図

これは「ラベンダーには意味がない」ということでも、「触れるだけで十分」と証明したことでもありません。小規模な研究ですし、香りの好みや、その日の体調もあります。

ただ、眠りの変化を精油だけに結びつけず、触れることや一緒に過ごした時間も含めて考える必要があることを教えてくれます。

緩和ケア病棟での私たちの活動や、触れるケアについては、こちらのまとめから過去記事をご覧いただけます。
緩和ケア×アロマ|触れるケアと香りの記録

論文に良い結果があると、「やっぱりラベンダーは眠りにいいんだ」と受け取りたくなります。

でも、対象になった方や使い方、調べた期間、睡眠の評価方法が違えば、見えてくる結果も変わります。

だから私は、研究を精油選びの手がかりにはしますが、「誰にでも同じように働く」とは考えません。

TINO

TINO

じゃあ、患者さんの「眠れました」は、どう考えたらいいの?

AromaTime川口三枝子

AromaTime川口三枝子

その言葉は大切に受け取ります。でも、精油だけの効果と決めつけないことも大切だと思っています。

「眠れました」を否定もしない、決めつけもしない

患者さんが「よく眠れました」と教えてくださったら、私はまず、その言葉をそのまま受け取ります。

「よかったです。教えてくださってありがとうございます^^」

そこで、精油の作用を説明したり、「ラベンダーが効きましたね」と言ったりはしません。

眠れない理由には、医療的な評価や対応が必要なこともあります。アロマは治療の代わりではありません。

そのうえで、香りを不快に感じていないか、触れてよい状態かを確認し、ご本人に選んでいただく。私たちができるのは、その方が少し休みやすい時間を一緒に考えることだと思っています。

痛みについても、私は同じ線引きを大切にしています。
アロマで痛みは治らない。それでも私が緩和ケアに精油を持っていく理由

研究と、目の前の患者さんの間で考え続ける

論文は、精油を選ぶための大切な手がかりです。

私自身の経験や、生徒さんからいただいた声も、現場で考える材料になります。

けれど、どちらか一方だけで答えを決めることはできません。

研究で分かっていること。まだ分からないこと。目の前の方がその香りを好きかどうか。その日の体調。そして、どのように触れ、どのような時間を一緒に過ごしたか。

ラベンダーを持っていく理由は、「眠れる精油だから」という一言ではなく、こうした材料を重ねながら選べる精油だからです。

「アロマのある日は、よく眠れました」

その一言をうれしく受け取りながら、何がその方の眠りにつながったのかを、これからも丁寧に考えていきたいと思います。

この記事のまとめ

  • 緩和ケアでは2種類の香りを用意し、そのうち一つにはラベンダーを入れることが多いです。
  • ラベンダーは睡眠との関係を調べた研究が比較的多く、私自身や生徒さんの使用経験も選択の手がかりにしています。
  • 緩和ケア患者68人の研究では、主観的な睡眠の質に良い変化が報告されましたが、すべての人に同じ結果を約束するものではありません。
  • 香りだけでなく、触れること、選べること、穏やかな時間も含めて考えることが大切です。
  • 患者さんの「眠れました」は大切に受け取りながら、精油だけの効果とは決めつけません。

よくある質問

Q. ラベンダーを使えば、必ず眠れますか?

必ず眠れるとは言えません。香りの好みや体調には個人差があります。不眠が続く場合や、病気・薬が関係している可能性がある場合は、医療機関へ相談してください。

Q. 夜中に目が覚めたとき、枕元で香らせてもよいですか?

まずは少量の香りを短時間試し、不快感、咳、息苦しさ、頭痛などがないか確認してください。火を使う方法は避け、同室の方やペットにも配慮します。医療・介護の場では、施設の決まりと医療者の判断を優先してください。

Q. 緩和ケアでラベンダーを使うとき、何を大切にしていますか?

香りを使ってよい状態かを確認し、ご本人の好みと選択を大切にします。香りを使わない選択も含め、治療とは分けてリラクゼーションの時間として行います。

看護にアロマを取り入れたい方へ

患者さんやご家族のために香りを使うとき、「好きな香りだから」だけではなく、精油の特徴や安全な使い方を知っておくことが大切です。

AromaTimeのNARD JAPAN認定アロマ・アドバイザー資格取得コースでは、睡眠についても触れながら、精油を基礎から体系的に学びます。看護の経験を、アロマの知識と結びつけてみませんか?

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<この記事を書いた人> 川口三枝子(AromaTime主宰)


NARD JAPAN認定アロマ・トレーナー/アロマセラピストトレーナー。アロマ歴28年。著書『すぐ使えるアロマの化学』はロングセラーとなり、台湾語版も発売。AromaTimeスクールチームとして、緩和ケア病棟でのアロマケアボランティアも継続しています。


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