忙しい看護師の勤務中ストレスに、マジョラム精油の香りは役立つ?

マジョラムの植物とTINOを描いた、看護師の勤務中ストレスとマジョラム精油を考える看護×アロマ記事のアイキャッチ。

ICUで働く看護師57人の研究から考える

忙しい勤務の中で、ずっと緊張が続いている。

患者さんの状態、ナースコール、記録、申し送り。頭も体も休まらないまま、次の対応に入っていくことがありますよね。

では、そんな勤務中のストレスに、マジョラム精油の香りは役立つのでしょうか。

この記事では、COVID-19 ICUで働く看護師さんを対象にした研究を手がかりに、「ストレスにはマジョラム」と丸暗記するのではなく、香りをどのように考えるかを整理します。職場での使用をそのまま勧める記事ではありません。

この記事は「看護×アロマ」シリーズの1本です。まず基本的な考え方から読みたい方は、看護×アロマとは?看護師が知っておきたい基礎知識と安全な学び方をご覧ください。

COVID-19 ICUで働く看護師57人の研究

2023年に発表された研究では、韓国の1つの大学病院のCOVID-19 ICUで働く看護師57人を対象に、マジョラム精油の芳香吸入がストレスや不安にどう関係するかを調べています。

参加者は、マジョラム群29人と対照群28人に分けられました。

マジョラム群では、3%に希釈したマジョラム精油をガーゼに含ませ、防護具に取り付けて、勤務中の2時間に自然呼吸で吸入しました。対照群では、同じようにアーモンド油を使っています。

評価されたのは、平均動脈圧、心拍数、状態不安、VASによる不安、VASによるストレスです。VASは、0から10までの線上で、主観的な強さを示す方法です。

結果として、ストレスのVASスコアは、マジョラム群で低下し、その変化量は対照群より大きかったと報告されています。

一方で、不安については少し丁寧に見る必要があります。マジョラム群の中では、状態不安やVAS不安の低下が報告されていますが、介入後の群間差は明確ではありませんでした。

つまり、この記事では「マジョラム精油で不安もストレスも解決する」とは書きません。

この研究から考えられるのは、少なくともこの条件では、勤務中の主観的ストレスを短時間で切り替える手がかりとして、マジョラム精油の香りが検討されたということです。

出典:Inhalation of Origanum majorana L. essential oil while working reduces perceived stress and anxiety levels of nurses in a COVID-19 intensive care unit: a randomized controlled trial(2023)

ICUで働く看護師57人を対象に、勤務中の3%マジョラム精油芳香吸入と対照群を比較したAromaTime作成の研究図。VASストレススコアはマジョラム群で6.96から6.29、対照群で6.64から6.48へ変化し、不安は群間差が明確でないことを読み取りポイントとして示している。

TINO:ストレスにはマジョラム、って覚えればいいの?

AromaTime川口三枝子:そこまで単純にはしません。どんな人に、どんな場面で、どう使った研究なのかを見てから考えましょう^^

忙しさそのものを、香りが消してくれるわけではありません

この研究で使われたのは、COVID-19 ICUという、とても特殊な勤務環境です。

対象者も57人で、1つの施設で行われた研究です。2時間の勤務中に1回吸入した結果であり、長期間使い続けた場合や、ほかの病棟、ほかの職種にそのまま広げられるわけではありません。

また、ストレスの原因そのものが香りでなくなるわけでもありません。

人員配置、勤務時間、業務量、感染対策、患者さんの重症度。看護師さんのストレスには、個人の工夫だけでは解決できないものがたくさんあります。

だから私は、「忙しいならマジョラムを嗅げばよい」とは言いたくありません。

けれど、忙しさの中で、自分の緊張に気づくこと。数分でも呼吸を戻すきっかけを持つこと。勤務中と勤務後の切り替えを、自分の体に知らせること。

そうした小さなセルフケアとして、香りを考える余地はあると思っています。

マジョラムは、心も体も温めるような印象のハーブ

マジョラムの学名は Origanum majorana です。

地中海沿岸に由来するハーブで、古代ローマでは幸福のハーブとされ、長寿をもたらす植物とも考えられていたと伝えられています。

私にとってマジョラムは、心も体も温めるような印象のハーブです。

緩和ケアでもよく使っている精油の一つで、少し甘さのあるハーブ調の香りが、思いのほか好まれることがあります。ラベンダーのように名前のイメージが先に立つ精油ではないぶん、実際に香っていただいたときに「これ、落ち着きますね」と言われることもあります。

ただし、香りの好みは人によって違います。

どれほど研究でよい結果があっても、本人が不快に感じる香りを無理に使う必要はありません。

精油名ではなく、その方が今どんな状態で、どんな香りを心地よいと感じるのか。そこを見たいのです。

勤務中に使うなら、周囲への配慮が先にあります

病院や施設で香りを使うときは、自分だけの問題ではありません。

患者さん、同僚、職場のルール、香りに敏感な方、アレルギーや体調の変化。いろいろなことを考える必要があります。

今回の研究では、ガーゼを防護具に取り付け、鼻先から約10cmの距離で吸入しています。けれど、それをそのまま一般的な勤務中の方法として勧めることはできません。

香りは空間に広がります。自分にはよい香りでも、そばにいる人にとっては負担になることがあります。

もし看護師さん自身のセルフケアとして考えるなら、まずは職場で使う前に、勤務外の時間に香りの印象を確かめる。ごく少量で、周囲に広げない方法を考える。施設の方針に反しないかを確認する。

この順番が大切です。

TINO:自分だけが嗅ぐつもりでも、周りに届くことがあるんだね。

AromaTime川口三枝子:そうなんです。看護の場では、香りも環境の一部。だから安全性と配慮を一緒に考えます。

「ストレスにはこの精油」ではなく、状態から考える

アロマを学ぶと、どうしても「ストレスには何がいいですか?」と聞きたくなります。

もちろん、精油ごとの特徴を知ることは大切です。

でも、私はそこでもう一歩、状態を見たいと思っています。

同じストレスでも、緊張で肩に力が入っているのか、疲れ切って何も考えたくないのか、怒りや焦りが強いのか、眠りに影響しているのかで、選び方は変わります。

勤務中に短く切り替えたいのか。帰宅後に休息へ向かいたいのか。夜勤明けなのか。休日の夜なのか。

場面が変われば、香りの役割も変わります。

看護師さんの睡眠と夜勤については、更年期前後、夜勤明けに眠れない――看護師の睡眠とアロマでも書きました。香りだけでなく、光、スマートフォン、生活時間の見直しも一緒に考える必要があります。

また、緩和ケアでラベンダーを使う理由については、「アロマのある日は、よく眠れました」──私が緩和ケアにラベンダーを持っていく理由で、患者さんの言葉と研究を分けながら書いています。

研究を読むことと、目の前の人に香りを選ぶこと。その間を丁寧につなぐ力が、看護×アロマではとても大切だと感じています。

この記事のまとめ

  • COVID-19 ICUで働く看護師57人を対象に、3%マジョラム精油を勤務中2時間吸入した研究があります。
  • ストレスのVASスコアは、マジョラム群で低下し、変化量は対照群より大きかったと報告されています。
  • 不安については、マジョラム群内で低下がみられましたが、介入後の群間差は明確ではありませんでした。
  • 忙しさそのものを香りが解決するわけではありません。
  • 香りは、自分の緊張に気づき、短く切り替えるきっかけとして考えることができます。
  • 職場で使う場合は、患者さん、同僚、施設の方針、香りへの感受性、安全性を必ず考える必要があります。

よくある質問

マジョラム精油は、看護師のストレスに効きますか?

「効く」と断定することはできません。1つの研究では、COVID-19 ICUで働く看護師さんの勤務中ストレスについて、マジョラム精油群でよい変化が報告されました。ただし、対象や条件は限られており、すべての看護師さんに同じ結果を約束するものではありません。

勤務中にマジョラム精油を使ってもよいですか?

職場のルール、患者さんや同僚への影響、香りに敏感な方への配慮が必要です。研究で使われた方法を、そのまま一般的な勤務中の使い方として勧めることはできません。

ストレスにはマジョラムを選べばよいですか?

精油名だけでは選びません。緊張、疲労、焦り、眠りへの影響など、ストレスの出方は人によって違います。香りの好みや体調、安全性、使う場面を合わせて考えます。


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<この記事を書いた人> 川口三枝子(AromaTime主宰)


NARD JAPAN認定アロマ・トレーナー/アロマセラピストトレーナー。アロマ歴28年。著書『すぐ使えるアロマの化学』はロングセラーとなり、台湾語版も発売。AromaTimeスクールチームとして、緩和ケア病棟でのアロマケアボランティアも継続しています。


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